健康福祉局医療福祉課後期高齢者医療係を卒業されたFさんへ
10月26日(火)の朝、出勤した私に衝撃が襲いました。天変地異的頭の混乱をきたしたのです。ここで「衝撃」といい「天変地異」といったのは、何も物事をことさら強調して、大げさにしているわけではありません。実際、その時の私の表情なり態度なり言語を注意深く観察している人がいたならば、平静にない認識の中身が如実に表現されていたことに気付いたことでしょう。必死に今この状態で何をなすべきか、それだけを考え余計な思いを排除しようとしていたことでした。
現象的には「11月1日から予定していた担当替えをどうしよう」とか「事務指導のFさん担当分を再配分しなければ」とか「新しく来るMさんへの教育・育成プランをつくらねば」とかいった構想を練りながらも、もっと深いところで沸き起こってきた思いとは概ね以下のようなものでした。
Fさんがうちの係に来て3日間は、通常の1ヶ月にも相当するほどの頭脳活動を行いました。後期高齢者医療制度は2年目に入り、当初ほどの混乱は収まっていたとはいえ、大先輩のNさんが異動し、その後をまわしていかなければならない不安や、Fさんと一緒にうちの係に来たTさんともども、うちの事業に関連することの中身を、それこそゼロから全てお伝えしていかなければならないことの責任感、また、そのお二人の表情や反応から何を理解してもらっていないのか、それをどう伝えれば理解してもらえるのか等々のモロモロの像が次から次へと頭の中に浮かんできたのです。
当然Fさんも私と同じように、いやそれ以上に必死で取り組まれたと思います。私の中では、本当にこの3日間だけでFさんと相当に深くやり取りをし、信頼関係といえるようなものを築けたと思っています。
初めの1、2カ月のうちにFさんにやっていただいた仕事は、新任研修の準備及び実施、特徴除外の要綱作成、身分証明書作成の企画係への依頼等でした。実際の担当事務は、私が前年度までやっていた特徴と統計等でしたが、新任研修では賦課収納全体を区の新任職員にお伝えするということをやりきってくれました。その準備として「研修では話すことの5倍は自分が理解してなければならない」との私の言葉を実践し、賦課と収納の手引きに付箋を貼り理解できないところは全て調べ上げ、それでもわからないところは私に聞くといった、徹底した仕事ぶりでした。特徴除外の要綱作成でも、他市町村のものを参考にするために、Y市等の担当者と調整をし、その要項を取り寄せたりするなど、新任の域を超えたものがありました。
それ以降も、通常の人ならば全くやったことのない、当然にFさんも初めての経験であったシステム開発に取り組み、格闘する中で立派な仕事をしていただきました。決算関係の複雑な集計についてもこれまでの不具合を具体的に業者に指摘し、それを改善していただきましたし、あらなたシステム開発である還付催告や時効不納欠損についても、区の事務処理も含めて一人で仕上げていただきました。また、今でも鮮明に記憶しているのは、ジョブフロー等の業者の用語で書かれておりあいまいな仕様書についても、今後どんなに経験のない担当者がその仕事についても理解できるように、分かりやすい表現に修正させていたことがあります。「事務というのは、担当者が変わる度により効率的で効果的なものに変えていかなければならない。」というFさんかいつか口にした言葉が今も心に残っています。その言葉通りに、エクセルのVBA等で効率的な仕組みを作り、大幅な事務軽減に努めていただきました。
こうした流れの中で私の心に生じてきたものは、23年度以降のうちの係の体制についてでした。私は後期高齢者医療の準備事務からこの仕事に携わる最後の人間として、自信と責任とを持って取り組んできたつもりです。正直、私がいなくなった後、この係をだれが全体を把握してまわしていけるのだろうと厚かましく不安に思っていた時期もありました。ところが、上述のFさんの仕事の中身、考え方の中身を見るにつけ、この人ならこの係を任せられる、この人に係を任すためにこの1年の全てを捧げようと、今年度の初めには思ったものでした。
10月26日に突如私を襲った激震の中身は、まだまだ言い尽くせませんが、こうした流れの中で理解していただければと思います。ひとつひとつ丁寧に丁寧に作り上げ育て上げたものが、ガラガラと音を立てて崩れ去るのみならず、その土台まで破壊しつくしかねないまでの崩壊ぶりでした。
巨大な鉄の塊が私の頭の中に落下してから1ヶ月半ほどたって、ようやくどうにかこの事件について記載する落ち着きと勇気を持ちえました。超大作の論文をワードで打ち込んでいて、大半完成する寸前に、保存する寸前に家に落雷があり全データが消去された時、再び立ち上がって同じものを作り上げる際の気持ちを奮い立たせる心のありようを、やっと回復しつつあります。でも、実際に一番心が揺れ動いたのは、私なんかではなくFさん本人だったに違いありません。
「万物は流転する」とのヘラクレイトスの言、「世界は過程の複合体である」とのヘーゲルの言を真に心にとめて、変化発展する我が係の、まだ浅いが永遠の歴史の一端にこの経験を刻んでいくための明日からの生き方を再確認する契機になったところです。
今後も、奥さんを大事にし、また新たに授かった家族を大切にして、立派に成長していただけることを祈念して、一旦私のモロモロの思いにけじめをつけたいと思います。
最後に、何はともあれ本当にありがとうございました。